『エンベディング』(イアン・ワトスン著)
本作は73年に発表されたイアン・ワトスンのデビュー作ですが、国書刊行会の「未来の文学」シリーズの一環として昨年再発されました。
複雑な情報の埋め込み(エンベディング)構造によって、新たな思想を持つ新たな言語を開発しようと、子供を使って怪しい研究をしている言語学者のソールは、その頃地球にやって来た異星人との交渉役を任されます。異星人は地球の言語構造を得るべく取引を申し出ているのです。一方、彼の旧友であるピエールはアマゾンの奥地に住むゼマホア族が持つ未知の言語を理解しようと、彼らと生活を共にしています。二つのストーリーはやがて絡み合い、行き着く先は・・・。
ドラッグやシャーマニズム、ベトナム戦争の後遺症などアイテムに時代を感じますが、この作品はどこまでマジメに捉えたらいいものやら。どーもギクシャクして読みにくいんですけど、何となくアホらしかったりする所がラブリーで楽しめます。
言語が人の思想を左右する事を前提に、言語をバラバラにして時間やら状況やらを同時に認識する事を可能にする事によって、全く新しい思想を生み出す事を目指す話しって感じでしょうか。
訳者の山形浩生さんが巻末に、ワトスンに対する愛なんだか批判なんだかの(多分、愛だろう)あとがきを書いているんですけど、コレが結構面白いです。あとがきの為に本文を我慢して読む価値があるかもしれないッスね。(笑)
因みにワトスンは90年にキューブリックのために『A.I.』の映画用ストーリーを執筆しています。